Webフォント配信とアプリ埋め込みは別の許諾 — @font-faceの前に条文のどこを見るか
「商用利用OK」と書かれたフォントを、そのまま自社サーバから@font-faceで配信したり、アプリやゲームにファイルごと同梱したりしてよいのか。この2つは商用利用そのものとは別の許諾であり、条文での扱いも互いに異なります。利用前に必ず各提供元の最新の条文をご確認ください。
3つを混同しない
「商用利用可」という一言には、性質の異なる3つの行為が混ざっています。①印刷物やWebサイトのデザインとして、そのフォントで字を組む「商用利用」。②フォントファイルを自分のサーバ・CDNに置き、@font-faceで配信する「Webフォント配信」。③アプリ・ゲーム・電子書籍・PDFなどにフォントファイル自体を同梱する「アプリ埋め込み」です。①と②③を分ける基準は、フォントファイルというソフトウェアそのものが利用者の手元に渡るかどうかです。①は字の形が画面表示や印刷物として固定されるのに対し、②③は条文が想定する「複製」「配布」の対象そのものになります。当サイトが条文を確認した範囲では、この境界をまたぐかどうかで、根拠となる条項自体が変わるフォントが少なくありません。
アウトライン化した文字とフォントファイルは別物
ロゴやポスターの中の「字の形」をアウトライン化(パスデータ化)したものと、ソフトウェアとしての「フォントファイルそのもの」は、多くの条文で別のものとして扱われています。前者は制作物の一部、後者はプログラム(ソフトウェア)です。@font-faceによる配信やアプリへの同梱は後者、つまりフォントファイルというソフトウェアを配布する行為にあたるため、多くのライセンスで商用利用とは別条項の対象になっています。ただし、画像やアウトラインでも、フォントの代わりとして機能する形で作って機器やゲームに載せる場合は別契約が必要とするライセンスもあります(モリサワの商業利用Q&A、ダイナフォントの使用許諾範囲など)。
核心 — 条文に「書いてある」と「書いていない」の差
SIL OFLの場合 — 埋め込みは明記、Web配信は読み取り
当サイトが確認したOFL 1.1(Noto Sans JP・源ノ角ゴシック・M PLUS 1・Zen Kaku Gothic Newなど)の条文には、「Webフォント」という語が一度も登場しません。一方、「埋め込み(embed)」の語は、前文(PREAMBLE)と、許諾条項(PERMISSION & CONDITIONS)冒頭の許諾の一文に明記があります。同じOFLフォントでも、当サイトの早見表が埋め込みを「可」、Web配信を「可(別条項)」と区別して表示しているのはこのためです。「可(別条項)」は、条文に直接の語句はないものの、ほかの条項が定める複製・再配布などの許諾範囲(OFLなら許諾条項冒頭の copy・redistribute の許諾)に含まれると解される場合に使うラベルで、条文にそのまま書かれている「可」とは根拠の強さが異なります。
Apache License 2.0(Kosugi等)はOFLと条件が違う
Google Fonts配布のKosugi・Kosugi Maruは、OFLではなくApache License 2.0が適用されています。Apache 2.0にも「Webフォント」「アプリ」といったフォント特有の語は登場せず、当サイトでは第2条の包括的な複製・配布許諾からの読み取りとして、商用利用・Web配信・アプリ埋め込みのいずれも「可(別条項)」としました。OFLとの大きな違いの一つが、フォントファイル単体の販売に関する規定の有無です。OFLはフォント単体の販売を明確に禁止する条項を持ちますが、Apache 2.0の第4条にはこの禁止規定がなく、ライセンスの写しを渡すこと、変更したファイルに変更した旨を表示すること、著作権表示を残すこと等を条件に再配布を許諾しています。同じ「Google Fonts配布」でも、適用ライセンスが違えば条件も変わります。
IPAフォントライセンスの特殊事情
IPAフォント・IPAexフォントに適用される「IPAフォントライセンスv1.0」の条文本文は、第1条で「エンベッドされた」状態を定義していますが、この定義はPDF等のデジタル・ドキュメント内で表示専用に組み込まれる場合に限定されており、Webフォント配信やアプリへの同梱を直接扱ってはいません。
一方、公式FAQには具体的な事例があります。アプリへのフォント組込み配布(FAQ2.4)、Silverlightを例にしたサーバーからのフォント配信(FAQ2.6)について、それぞれ「再配布」に該当し条件付きで許諾されると説明されています。当サイトはこのFAQの記載を根拠に、Web配信・アプリ埋め込みを「可(別条項)」としました。
ただし、この整理を「FAQにこう書いてあるから安全」と読むのは早計です。文字情報技術促進協議会のサイトに載っている会長ブログ「IPAフォントライセンスを巡って」(2024年2月)では、同じIPAフォントライセンスで配布されているMJ明朝体フォントをWOFF化するサービスについて「使用許諾契約に違反しているのではないか」との指摘があり、MJ明朝体に限ったそのサービスの公開を差し控えてもらった経緯が書かれています。FAQの事例はSilverlightという特定の仕組みを例にしたものであり、現代の一般的な@font-faceによるWebフォント配信を直接名指しした記述は、条文にもFAQにも見当たりません。IPAフォントのWeb配信・サブセット化の扱いは、実務上まだ流動的な面が残っていると当サイトは考えています。IPAexフォントにも同一のライセンスが適用され、事情は共通です。
OS同梱フォントは明確に不可の側
游ゴシック・メイリオなどWindows同梱フォントについては、Microsoft公式FAQがWebフォント配信・アプリ埋め込みのいずれも認めていないと明記しています。ここまで見てきたOFL・Apache・IPAフォントとは対照的に、条文(FAQ)が明快に「不可」の結論を示している数少ない例です。詳しい条文の引用と、macOS版ヒラギノとの情報量の違いについては、姉妹記事「OS同梱フォントを配布物に入れてよいのか」で扱っています。
有償フォントは「Web配信が別ライセンス」の典型
有償フォントの契約は、印刷物・映像などの通常利用と、Web配信・アプリ組込みとで契約自体が分かれている例が目立ちます。当サイトが確認した範囲では、SCREENのヒラギノフォント デスクトップライセンスは、使用許諾範囲表でゲーム・アプリと電子書籍へのフォント組込みを✕とし、Webフォントには別途「Webフォントサービス」が必要と明記しています。アプリへの組込み向けには、別の「アプリ組込みライセンス」が用意されています。フォントワークスLETSのゲーム用途特約・アプリ用途特約は、サーバーへのフォントの収録・設置を原契約の許諾範囲外とし、アウトラインフォントとしてのエンベッドやフォントのバンドルには別途「アプリ・ゲーム組込オプション」の購入が必要としています。ダイナフォントの使用許諾範囲表は、サーバーにフォントをインストールして使う場合を表のすべての製品で別途許諾が必要とし、ゲーム・モバイルアプリへのフォント埋め込みも、DynaSmart Vではゲーム拡張オプション契約、ほかの製品では別途許諾が必要としています。モリサワのMORISAWA PASSPORTも、エンドユーザライセンス契約書の第6条で、書面による許諾なしにフォントを再配布・公衆送信(送信可能化を含む)・組込することを禁じています。ただしこれらはいずれも契約プランにより異なりうるため、可否を断定することはできません。個別の契約内容は各社の規約ページで確認する必要があります。
実務チェックリスト — 配信・同梱の前に確認する項目
以下は「確認すべき項目」のリストであり、「このフォントなら安全」という判定ではありません。
- 条文に「Web」「webfont」「@font-face」といった語が直接あるか、それとも別条項からの読み取りかを確認する
- 条文に「embed」「組込み」「バンドル」といった語が直接あるか確認する(embedとwebfontは条文上、別の語として扱われていることが多い)
- OFLなら許諾条項(PERMISSION & CONDITIONS)冒頭の許諾と条件1〜5を、Apache 2.0なら第2条・第4条の複製配布条件を、それぞれ条文本文で読む
- 条文本文だけでなく公式FAQに個別事例の記載がないか確認する(IPAフォントのように、FAQが条文の空白を埋めている場合がある)
- 有償フォントの場合、契約プランに「Webフォント」「アプリ組込み」向けの別オプション・別製品が用意されていないか確認する
- OS同梱フォントかどうかを確認する(該当する場合、Webフォント配信・アプリ埋め込みとも不可と明言されている例がある)
- 条文に記載がない項目を、うっかり「禁止」と読み替えていないか、最後にもう一度見直す
出典一覧
- Noto Sans JP ライセンスページ(Google Fonts)
- 源ノ角ゴシック LICENSE.txt(Adobe公式GitHub)
- M PLUS 1 ライセンスページ(Google Fonts)
- Zen Kaku Gothic New OFL.txt(公式GitHub)
- Kosugi LICENSE.txt(Apache License 2.0)
- IPAフォントライセンスv1.0 条文(文字情報技術促進協議会)
- IPAフォント公式FAQ
- 「IPAフォントライセンスを巡って」(文字情報技術促進協議会 会長ブログ)
- Font redistribution FAQ for Windows(Microsoft公式)
- ヒラギノフォント デスクトップライセンス 使用許諾範囲(SCREEN公式)
- ヒラギノフォント Webフォントサービス(SCREEN公式)
- ヒラギノフォント アプリ組込みライセンス(SCREEN公式)
- フォントワークス LETSサポートライセンス規約
- DynaFont使用許諾範囲について(ダイナコムウェア公式)
- MORISAWA PASSPORT エンドユーザライセンス契約書(モリサワ公式PDF)
- 商業利用について(モリサワ公式Q&A)
このページを引用する場合
本記事の情報を引用・紹介いただく場合は、記事名「Webフォント配信とアプリ埋め込みは別の許諾 — @font-faceの前に条文のどこを見るか」と情報確認日「2026年10月11日」をあわせてお示しください。当ページへのリンクは任意です(リンクいただける場合は https://www.conbu.jp/tool/font-license/article-webfont-vs-embedding.html をご利用ください)。
利用前に必ず各提供元の最新の条文をご確認ください。
免責事項: 本記事は特定フォント・ベンダーの公式サイトではなく、法的助言を提供するものでもありません。掲載している内容は調査時点(2026年10月11日)でライセンス条文・公式FAQから確認できた要約です。ライセンスは改定されうるため、最新の条件は必ず各提供元の原文でご確認ください。詳細は免責事項をご確認ください。